第二次世界大戦時のナチス占領下のパリ。1944年、マルグリット・デュラス30歳。夫のロベールは地下でレジスタンス活動をしていたため、ゲシュタポに突然連れ去られる。それが、彼の帰りを祈り、彷徨い、苦悩する、彼女にとっての愛のための人生の始まりだった…。夫を待ち続ける不安の日々、現れるヴィシー政権の手先の男の誘惑、そして彼女を支える愛人――。戦時下、誰もが、戦場に赴いた人、捕えられた人を待ち続け、愛しつづけることの痛みと不安と闘っていた。愛とは、苦しみなのか、歓びなのか、あるいは待つことなのか?すべての女性に贈られる、愛とは何かを突き付ける、フランスが世界に誇る小説家マルグリット・デュラスの自伝的原作『苦悩』(河出書房新社刊)を見事映画化。映像化不可能と言われた本作をベースに、デュラス自身の愛と、その苦しみが、戦争の記憶とともに語られる、激動の愛のドラマが誕生した。
20世紀フランス文学を代表する女流作家であり、音と映像の関係を極限まで追求した先鋭的で独創的な映画作家でもあるマルグリット・デュラス(1914年―1996年)の原作『苦悩』を映画化した『あなたはまだ帰ってこない』が、いよいよ公開される。1984年に発表されたデュラスの前作『愛人/ラマン』は、ゴンクール賞を受賞し世界的なベストセラーとなり、ジャン=ジャック・アノー監督によって映画化され、空前のデュラス・ブームが巻き起こった。その翌年、1985年に刊行された『苦悩』は、デュラス自身が「私の生涯でもっとも重要なものの一つである」と語っているほど、作者自身が深い愛着を抱いていた作品である。特にデュラス自身が1940年代半ばに書いた日記や手記をそのまま、ほぼ削除せずに載せていたことも大きなスキャンダルとなり、話題となった。
マルグリット・デュラスは、これまでにも『ユダヤ人の家』などの作品においてユダヤ人の悲劇的状況を繰り返し描いてきた。そして、彼女の赤裸々な自伝ともいうべき原作をベースにした『あなたはまだ帰ってこない』でも、占領下のナチズムの暴虐ぶりを浮き彫りにすると同時に、極限状況において、<愛>という感情がいかにうつろいやすく、瞬く間に終焉してしまうのか、しかし、そこにあった<愛>もまた、真実であるのだという愛の痛みをリアルに突きつけてくるのである。

監督はゴダールやキェシロフスキの助監督などを務め、その才能に高い評価があるエマニュエル・フィンケル。主演はマルグリット・デュラス役に『海の上のピアニスト』『ザ・ダンサー』などのメラニー・ティエリー、そしてゲシュタポの手先となり、彼女を誘惑する謎めいた男ラビエを『ピアニスト』のブノワ・マジメルが演じ、愛に苦悩する姿を見事見せつけている。
1944年6月、第二次世界大戦中、ナチス占領下のパリ。ジャーナリストでもあり、作家の道を歩み始めたマルグリットは、夫ロベール・アンテルムとともにレジスタンスの一員として活動していたが、ロベールはゲシュタポに連れ去られ収監されてしまう。日ごとパリのナチス本拠地に通い、夫の情報を得ようとするが、周りには彼女と同じように夫や恋人、家族の安否を知ろうとする女たちで溢れていた。誰もが表情は暗く、短い時間の間に刻み込まれて皺が、顔を覆っていた。

そんなとき、一人の謎めいた男がマルグリットに近づいてくる。夫を逮捕したというゲシュタポの手先ラビエだった。ラビエは作家であるマルグリットへの尊敬の念を隠そうとせず、戦争が終わったら、ドイツに芸術書を扱う本屋を開くのが夢だ、と誘ったカフェでワインを薦めながら語るのだった。しかしマルグリットが知りたい夫の情報は、小出しにしかせず、彼女との次の逢瀬を取りつけるのだった。さらには自分の口添えで、ロベールを労働免除にした、拷問もしていない、とマルグリットの耳元でささやく。
彼女はラビエの言われるままに、彼の指定する場所、時間に、一分の狂いもなく駆けつけるようになっていく。まるでつき合いたての恋人同士が、時間を惜しむかのように。しかし、それが、マルグリットにとっての、ロベールへの愛の証だった。彼を無事奪還すること、そして待ち続けること。そのための手段以外、彼女にはなかった。たぶん、ほかの、待つ大勢の女たちにも。

レジスタンス運動の仲間たち、とくにマルグリットの愛人でもあるディオニスは、ラビエに懐疑的であったが、しかし、ゲシュタポの情報を入手できる可能性に賭け、マルグリットとラビエの逢瀬を許すのだった。しかし飛び込んできたのは、ロベールのドイツへの移送という情報だった。
夫ロベールは生きて帰れるのだろうか。愛する夫の長く耐えがたい不在。心も体もぼろぼろになりながら夫の帰りを待つマルグリットだったが…。 
1914年、フランス領インドシナ(現ベトナム)のサイゴンに生まれる。 法律を学ぶため、1932年にフランスに帰国しパリ南部近郊ヴァンヴに居住。パリ大学で法律・数学を専攻し、政治学のディプロ厶を取得。1939年、ロベール・アンテルムと結婚する。1942年に初めての子供を出産後に失う。 1943年、処女作『あつかましき人々』を発表する。また、この頃、ディオニス・マスコロと知り合う。1950年に発表した、現地で教師をしていたが早くに夫に先立たれた母が、現地の役人にだまされ、海水に浸ってしまう土地を買わされ、それ以後、彼女達一家は貧困を余儀なくされるという一家の苦難と、母の悲哀を描いた自伝的小説の『太平洋の防波堤』は、わずかの差でゴンクール賞を逃す。 1984年に発表した、インドシナに住んでいた時に知り合った華僑の青年との初めての性愛体験を描いた自伝的小説『愛人 ラマン』は、ゴンクール賞を受賞し、世界的ベストセラーとなった。1992年にはフランス・イギリス合作で映画化され、この映画『愛人/ラマン』も原作同様ヨーロッパや日本で大ヒットした。なお、この作品の姉妹編とも言うべき『北の愛人』は、かつてのデュラスの愛人だった中国人青年の死を聞いて執筆を始めたという。この作品は1991年に発表された。 ペンネームのデュラスは、彼女の父の出身地から取ったもの。また映画監督作や、映画原作となった著作も数多い。 1996年3月3日没。
1943年
『あつかましき人々』を発表。ディオニス・マスコロと知り合う。F・ミッテランの下でレジスタンス運動に加わる
1944年
下の兄がインドシナで死去。アンテルム、強制収容所に送られる。共産党に入党する
1946年
アンテルムと離婚
1947年
マスコロとの息子のジャンを出産
1958年
『モデラートカンタービレ』を発表
1959年
シナリオを執筆した映画『二十四時間の情事」が公開される
1964年
『ロル V. シュタインの歓喜』を発表
1966年
『ラ・ミュジカ』で初めて映画監督を務める
1968年
五月革命に参加。
1969年
≪断絶≫叢書から『破壊しに、と彼女は言う』を発表
1980年
マスコロとの息子のジャンを出産
1958年
トゥルーヴィルの海岸沿いのマンションに住む。夏、38歳年下の青年、ヤン・アンドレアと知り合う。その後、彼と恋人関係になる
1981年
『アウトサイド』出版
1982年
アルコール中毒で入院
1984年
『愛人 ラマン』出版、ゴンクール賞を受賞
1985年
『苦悩』を発表
1986年
『青い目、黒い髪』を発表
1987年
『愛と死、そして生活』『エミリー・L』を発表
1990年
『夏の雨』を発表
1991年
『北の愛人』を発表
1992年
『ヤン・アンドレア・シュタイナー』を発表
1993年
『エクリール』を発表
1996年
『これでおしまい』遺稿。3月3日にパリの自宅で死去
1967年
『冬の旅・別れの詩 La Musica』
1969年
『破壊しに、と彼女は言う Détruire, dit-elle』
1972年
『ナタリー・グランジェ/女の館 Nathalie Granger』
1974年
『ガンジスの女 La Femme du Gange』
1975年
『インディア・ソング India Song』
1976年
『木立ちの中の日々 Des journées entières dans les arbres 』
1976年
『ヴェネツィア時代の彼女の名前 Son nom de Venise dans Calcutta désert』
1977年
『トラック Le Camion』
1977年
『バクスター、ヴェラ・バクスター Baxter, Vera Baxter』
1978年
『船舶ナイト号 Le Navire Night』
1979年
『セザレ Césarée』
1979年
『陰画の手 Les Mains négatives』
1979年
『オーレリア・シュタイネル メルボルン Aurelia Steiner, dit Aurélia Melbourne』
1979年
『オーレリア・シュタイネル ヴァンクーヴァー Aurélia Steiner, dit Aurélia Vancouver』
1979年
『オーレリア・シュタイネル メルボルン Aurelia Steiner, dit Aurélia Melbourne』
1981年
『アガタ Agatha et les lectures illimitées』
1984年
『子供たち Les Enfants』
1957年
『海の壁 Barrage contre le Pacifique』原作
1959年
『二十四時間の情事 Hiroshima mon amour』原作・脚本
1960年
『かくも長き不在 Une aussi longue absence』脚本
1960年
『雨のしのび逢い Moderato cantabile』原作・脚本
1966年
『マドモアゼル Mademoiselle』脚本
1966年
『夏の夜の10時30分 10: 30 P.M. Summer』原作・脚本
1992年
『愛人/ラマン L'Amant』原作
2017年
『苦悩 La Douleur』原作
1961年パリ近郊のブローニュ=ビヤンクール生まれ。ベルトラン・タヴェルニエやクシシュトフ・キェシロフスキ、ジャン=リュック・ゴダールらの助監督を経て95年に監督デビュー。長編第一作「VOYAGES」はカンヌ国際映画祭<監督週間>に出品されユース賞を受賞したほか、セザール賞2部門など数多くの映画賞を受賞した。TVドキュメンタリー「EN MARGE DES JOURS」(07)ではビアリッツ国際テレビ映像フェスティバルのゴールデンFIPA賞(脚本賞)を受賞、「NULLE PART TERRE PROMISE」(08)では2度目のジャン・ヴィゴ賞に輝いた。2016年2月にフランスで公開された『正しい人間』(15)には、本作でデュラスを演じたメラニー・ティエリーとニコラ・デュヴォシェルが主演。商業的にも批評的にも成功し、アングレーム・フランス語映画祭の最優秀監督賞と主演男優賞を受賞した。2017年に世界で初めて開催されたオンライン映画祭、第7回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルで上映された。
1981年パリ近郊のブローニュ=ビヤンクール生まれ。1981年イル・ド・フランス地方のサン=ジェルマン=アン=レーに生まれる。幼少よりモデルとして活動を始め、イタリア版「Vogue」誌をはじめ、様々なファッション雑誌で活躍。エルメスやイヴ・サンローランの広告塔として知られ有名になる。一方で、女優としての新たなキャリアを積むためTV作品や映画へ進出。1999年、イタリアの映画監督ジュゼッペ・トルナトーレの『海の上のピアニスト』に出演し、一躍注目を浴びる。その後、ジュリアン・ルクレルク監督の『インストーラー』(07)への出演を経て、マチュー・カソヴィッツ監督のSFアクション『バビロンA.D.』(08)でヴィン・ディーゼル、ミシェル・ヨーとの共演を果たしハリウッド映画に初進出。さらに、テリー・ギリアム監督のSF映画『ゼロの未来』(13)に出演。『ザ・ダンサー』(16)で、セザール賞の助演女優賞にノミネートされた。
1974年パリ生まれ。『人生は長く静かな河』(88)のモモ役で注目を集める。『夜の子供たち』(96)でセザール賞有望若手男優賞にノミネートされる。その後『年下のひと』(99)で共演したジュリエット・ビノシュと恋仲になり、2000年に娘が誕生。ミヒャエル・ハネケの『ピアニスト』(01)では、カンヌ国際映画祭主演男優賞を史上最年少で受賞。その後、次々と映画出演のオファーが舞い込み、ピエール・グランブラの『銀幕のメモワール』(01)ではフランスを代表する名女優ジャンヌ・モローとの共演を果たした。名匠クロード・シャブロル監督の『石の微笑』(04)、ジェラール・ピレス監督の『ナイト・オブ・ザ・スカイ』(05)、『裏切りの闇で眠れ』(06)等で主演を務め、クロード・シャブロル監督の最晩年の作品となった『引き裂かれた女』(07)では、リュディヴィーヌ・サニエと共演した。2015年の『太陽のめざめ』でセザール賞助演男優賞を受賞した。
都道府県 劇場名 公開日
北海道 シアターキノ 順次公開
青森 フォーラム八戸 4月5日
宮城 チネ・ラヴィータ 4月5日
山形 フォーラム山形 4月5日
山形 フォーラム福島 4月5日
東京 Bunkamuraruル・シネマ 2月22日
茨城 あまや座 順次公開
栃木 宇都宮ヒカリ座 5月4日
群馬 シネマテークたかさき 順次公開
神奈川 川崎市アートセンター 順次公開
神奈川 シネマ・ジャック&ベティ 4月6日
愛知 名演小劇場 3月2日
新潟 シネ・ウインド 順次公開
長野 松本CINEMAセレクト 順次公開
静岡 シネマイーラ 順次公開
大阪 テアトル梅田 3月8日
兵庫 シネ・リーブル神戸 3月29日
京都 京都シネマ 3月16日
岡山 シネマ・クレール 順次公開
熊本 Denkikan 順次公開
鹿児島 ガーデンズシネマ 4月20日
沖縄 桜坂劇場 順次公開