INTRODUCTION
  • 米アカデミー、カンヌを賑わすフランス映画界の未来を担う新たな才能たち
    新進気鋭のヨアン・マンカが描くのは厳しい環境で光る“小さな奇跡”
    一時期、低迷していたフランス映画界が、近年にわかに活気を取り戻している。とりわけ目を引くのが、冒険心を忘れず意欲作を生み続けるベテラン勢と対を成し、映画界の明るい未来を予見させるかのように次々飛び出してくる瑞々しくパワフルな新たな才能だ。
    カンヌ国際映画祭審査員賞を授賞した『レ・ミゼラブル』(19)のラジ・リ、米アカデミー賞国際長編映画賞フランス代表の最終候補に残った『GAGARINE/ガガーリン』(20)のファニー・リヤタール&ジェレミー・トルイユ。そして新進作家の勢いを決定付けた、2021年カンヌ映画祭<ある視点部門>に正式出品された、この『母へ捧げる僕たちのアリア』のヨアン・マンカ。

    これら3つの長編デビュー作には、移民が多く暮らす地域の集合住宅を舞台に、貧困の中で子供や若者たちがいかに社会から疎外され、そこから抜け出せないでいるか、“まさに今”の厳しい社会状況に真っ直ぐ目を向けた、リアリズムに根差した作品という共通点が見いだせる。だが同時に、それぞれの味わいは大きく異なる。この『母へ捧げる僕たちのアリア』でヨアン・マンカは、厳しい環境の中でも決して見捨てない/切れることのない家族の絆、オペラとの出会いと予期せぬ才能という2つの“小さな奇跡”を両翼に、遂に<此処>から飛び出し未来に向かおうとする少年の姿を、詩情あふれる映像で描き出す。そこに絵空事ではないリアルな手触りが残るのは、監督自身の自伝的な要素が盛り込まれているからだろう。
  • 社会の底辺で生きる少年が出会ったオペラ     
    そして少年は家族の愛を追い風に、新しい世界へと踏み出していく
    夏休みの前日から夏休みが終わるまでの、少年ヌールの忘れ難いひと夏の経験が綴られる。威圧的でつい暴力に頼る長男アベル、優しくお調子者の次男モー、反抗的な問題児の三男エディ、素直で音楽を愛する四男のヌール。この4兄弟の全く異なる個性と関係のバランスが、物語を豊かに躍動させる。ヌールとは別世界の住人であるオペラ歌手のサラとの出会いによって、ヌールが音楽への愛を自覚し、歌う喜びを知って以降、物語はさらに生き生きと色づき始める。また弟の音楽愛を小ばかにしていた兄たちが、別世界に飛び出そうとするヌールを温かく見守り、応援しようとする彼ら自身の変化も感動を呼ぶ。

    ヨアン・マンカが本作の着想を得たのは、エディ・ディレット・ド・クレルモン=トネールの戯曲を、監督自身が18歳で演出・出演した舞台「なぜ私たちは去ったのか-兄さんたちとぼく」。劇中のエピソードの一つ、“縁のなかった芸術との出会い”が自身の体験にリンクして、その後の人生に多大なる影響を与えたという。つまり本作の主人公ヌールは、ヨアン・マンカが芸術と出会い、目覚める運命的な瞬間を捉えなおしたともいえる。
  • ハリウッドからも見出された魅力的なキャスト陣
    フランス映画の今後を担う、若い才能から目が離せない!
    長男アベルを演じるのは、既にハリウッドに見出され、『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』で殺し屋・プリモを演じて強い印象を放ったダリ・ベンサーラ。次男ムーを演じるのは、短編「Red Star」(20)や「Hédi & Sarah」(17)でも起用し、本作も当て書きだったと語るソフィアン・カーメ。三男エディを演じたモンセフ・ファルファーは、本作が初の演技経験だが、監督が「動物的な勘でエディを肉体化した」と語る、危うく目が離せない魅力を存分に焼き付けた。主役で四男ヌールには、既に子役として活動していたマエル・ル-アン=ブランドゥが、オーディションによって選ばれ、ソプラノ歌手ドミニク・モアティによる指導のもと、劇中で歌声を開花させゆく過程が本作にさらなるリアリティを与える。サラを演じたジュディット・シュムラは、長くコメディ・フランセーズの舞台に立ち続けて来た実力派女優。『カミーユ、恋ふたたび』(12)や『女の一生』(16)などでセザール賞他にノミネートされている。

    少年ヌールの芸術への目覚めを、ヨアン・マンカ監督が自身の体験を交えて、南仏の陽光の中、詩情溢れる映像で描いた長編デビュー作。偶然の出会いと気づき、そして飛び出す勇気があれば、きっと未来の扉は開かれていく――。厳しい現実をリアルに映しながらも、そんな清々しさと希望を差し込ませた感動作の誕生である。
米アカデミー、カンヌを賑わすフランス映画界の未来を担う新たな才能たち
新進気鋭のヨアン・マンカが描くのは厳しい環境で光る“小さな奇跡”
一時期、低迷していたフランス映画界が、近年にわかに活気を取り戻している。とりわけ目を引くのが、冒険心を忘れず意欲作を生み続けるベテラン勢と対を成し、映画界の明るい未来を予見させるかのように次々飛び出してくる瑞々しくパワフルな新たな才能だ。
カンヌ国際映画祭審査員賞を授賞した『レ・ミゼラブル』(19)のラジ・リ、米アカデミー賞国際長編映画賞フランス代表の最終候補に残った『GAGARINE/ガガーリン』(20)のファニー・リヤタール&ジェレミー・トルイユ。そして新進作家の勢いを決定付けた、2021年カンヌ映画祭<ある視点部門>に正式出品された、この『母へ捧げる僕たちのアリア』のヨアン・マンカ。

これら3つの長編デビュー作には、移民が多く暮らす地域の集合住宅を舞台に、貧困の中で子供や若者たちがいかに社会から疎外され、そこから抜け出せないでいるか、“まさに今”の厳しい社会状況に真っ直ぐ目を向けた、リアリズムに根差した作品という共通点が見いだせる。だが同時に、それぞれの味わいは大きく異なる。この『母へ捧げる僕たちのアリア』でヨアン・マンカは、厳しい環境の中でも決して見捨てない/切れることのない家族の絆、オペラとの出会いと予期せぬ才能という2つの“小さな奇跡”を両翼に、遂に<此処>から飛び出し未来に向かおうとする少年の姿を、詩情あふれる映像で描き出す。そこに絵空事ではないリアルな手触りが残るのは、監督自身の自伝的な要素が盛り込まれているからだろう。
社会の底辺で生きる少年が出会ったオペラ     
そして少年は家族の愛を追い風に、新しい世界へと踏み出していく
夏休みの前日から夏休みが終わるまでの、少年ヌールの忘れ難いひと夏の経験が綴られる。威圧的でつい暴力に頼る長男アベル、優しくお調子者の次男モー、反抗的な問題児の三男エディ、素直で音楽を愛する四男のヌール。この4兄弟の全く異なる個性と関係のバランスが、物語を豊かに躍動させる。ヌールとは別世界の住人であるオペラ歌手のサラとの出会いによって、ヌールが音楽への愛を自覚し、歌う喜びを知って以降、物語はさらに生き生きと色づき始める。また弟の音楽愛を小ばかにしていた兄たちが、別世界に飛び出そうとするヌールを温かく見守り、応援しようとする彼ら自身の変化も感動を呼ぶ。

ヨアン・マンカが本作の着想を得たのは、エディ・ディレット・ド・クレルモン=トネールの戯曲を、監督自身が18歳で演出・出演した舞台「なぜ私たちは去ったのか-兄さんたちとぼく」。劇中のエピソードの一つ、“縁のなかった芸術との出会い”が自身の体験にリンクして、その後の人生に多大なる影響を与えたという。つまり本作の主人公ヌールは、ヨアン・マンカが芸術と出会い、目覚める運命的な瞬間を捉えなおしたともいえる。
ハリウッドからも見出された魅力的なキャスト陣
フランス映画の今後を担う、若い才能から目が離せない!
長男アベルを演じるのは、既にハリウッドに見出され、『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』で殺し屋・プリモを演じて強い印象を放ったダリ・ベンサーラ。次男ムーを演じるのは、短編「Red Star」(20)や「Hédi & Sarah」(17)でも起用し、本作も当て書きだったと語るソフィアン・カーメ。三男エディを演じたモンセフ・ファルファーは、本作が初の演技経験だが、監督が「動物的な勘でエディを肉体化した」と語る、危うく目が離せない魅力を存分に焼き付けた。主役で四男ヌールには、既に子役として活動していたマエル・ル-アン=ブランドゥが、オーディションによって選ばれ、ソプラノ歌手ドミニク・モアティによる指導のもと、劇中で歌声を開花させゆく過程が本作にさらなるリアリティを与える。サラを演じたジュディット・シュムラは、長くコメディ・フランセーズの舞台に立ち続けて来た実力派女優。『カミーユ、恋ふたたび』(12)や『女の一生』(16)などでセザール賞他にノミネートされている。

少年ヌールの芸術への目覚めを、ヨアン・マンカ監督が自身の体験を交えて、南仏の陽光の中、詩情溢れる映像で描いた長編デビュー作。偶然の出会いと気づき、そして飛び出す勇気があれば、きっと未来の扉は開かれていく――。厳しい現実をリアルに映しながらも、そんな清々しさと希望を差し込ませた感動作の誕生である。
STORY
主人公は、南仏の海沿いの町の古ぼけた公営団地で、兄3人と暮らす14歳のヌール。重篤で昏睡状態の母を兄弟4人で自宅介護する生活は苦しく、まだ中学生ながら夏休みは兄の仕事の手伝いと家事に追われる毎日だ。そんなヌールの欠かせない日課は、毎夕、母の部屋の前までスピーカーを引っ張っていき、母が大好きなオペラを聴かせてあげること。そんなある日、教育奉仕作業の一環で校内清掃中だったヌールは、そこで歌の夏期レッスンをしていた講師に呼び止められ、歌うことに魅せられていくのだが――。
STAFF
脚本&監督
YOHAN MANCAヨアン・マンカ
俳優と舞台演出家としてキャリアをスタートさせる。わずか18歳の時に、エディ・ディレット・ド・クレルモン=トネールの戯曲から「なぜ私たちは去ったのか―兄さんたちとぼく」を演出・出演。彼との共同制作は以後数年続いた一方で、モハメド・カシミとともに多数のプロジェクトにも着手していた。 舞台の仕事と並行して、フランスとスペインでいくつかの長編映画に出演。2012年、コリンヌ・マシエロ主演の短編映画作品 「Le sac」 (The Bag)の脚本・監督を務め、この作品は多くの映画祭で上映された。二作目の短編映画でジュディット・シュムラとトーマス・シメカが出演した「Hedi & Sarah」は、ハラスメントという題材を扱いメディアで大きな反響を得る。この作品はフランス映画批評家協会賞で最優秀短編映画賞(the Best Short Film Award)にノミネートされ、CNC(国立映画センター)が制作後の短編映画へ授与する助成金を受け取る。三作目の短編映画でアベル・ジャフリとジュディット・シュムラが出演した「Red Star」は、2021年のクレルモン=フェラン国際短編映画祭でオフィシャルセレクションに選ばれた。 2020年、ヨアン・マンカは自ら脚本も務めた初の長編映画『母へ捧げる僕たちのアリア』を撮影する。2019年にアンジェで開催されるthe Ateliers Premiers Plans (フランス語を話して短編映画の撮影経験があり、初の長編フィクション映画を企画している若い映画監督に向けてのワークショップ)に選ばれ、ボーマルシェ-SACD(Beaumarchais-SACD)賞の助成金を得ると、この作品は製作に入る前から注目を集める。ヨアン・マンカは現在、ジュリアン・マドン製作の長編二作目“Pirate n° 7”を執筆中である。
CAST
JUDITH CHEMLAジュディット・シュムラ
女優、歌手、舞台女優、演出家のジュディット・シュムラは、2007年にコメディ・フランセーズのメンバーとなり劇場とオペラの分野でのキャリアを突き進んできた。それと同時に、ピエール・ショレール、ジャン=ミシェル・リブ、ベルトラン・タヴェルニエ、ピエール・サルヴァドーリ、ノエミ・ルヴォヴスキ、アンドレ・テシネ、ステファヌ・ブリゼ、エリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュ、ミア・ハンセン=ラヴなどの一流の監督たちの映画作品にも出演を果たす。2008年、青山真治監督の赤ずきんを題材にした短編映画「赤ずきんと靴跡」でルー・カステルと共演。2013年、ノエミ・ルヴォウスキー監督の『カミーユ、恋はふたたび』での役でセザール賞の最優秀助演女優賞にノミネートされ、リュミール賞でも最有望女優賞を受賞した。2017年、ステファヌ・ブリゼ監督の『女の一生』でセザール賞の最優秀女優賞にノミネート。『母へ捧げる僕たちのアリア』の他に、レティシア・マッソン監督の「Un hiver en été」、オリヴィエ・ダアン監督(『エディット・ピアフ ~愛の讃歌~』)とイヴァン・アタル監督(『ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール』)の新作映画の公開が控えている。
DALI BENSSALAHダリ・ベンサーラ
演劇学校クール・フローラン、コリーヌ国立劇場、ストラスブール国立劇場、アヴィニョンのファブリカで演技の経験を積み、特にオリヴィエ・ピィ監督のもと、舞台でのキャリアで成功を収めた。2017年、バンドThe Blazeの“Territory”のクリップでの演技が注目を集める。2019年レベッカ・ズロトヴスキ監督のミニシリーズのTVドラマ 「Les Sauvages」で主演のひとりを演じ、広く世の中に知られる。カルメン・アレサンドラン監督の「Interrail」で長編映画デビューを果たし、その後ルイ・ガレル監督の『パリの恋人たち』に出演した。2021年に劇場公開されたキャリー・ジョージ・フクナガ監督による最新のジェームスボンド映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』にもボンドを脅かす殺し屋役として出演。『母へ捧げる僕たちのアリア』の他2作、出演作の公開が控えている。
SOFIAN KHAMMESソフィアン・カーメ
アマチュアの劇団で演技経験を積んだ後、2009年にパリ国立高等演劇学校へ。2015年、フレデリック・シェンデルフェール監督の『ファスト・コンボイ』で初の長編映画出演を果たし、同年カリム・ドリディ監督の「Chouf」で主演を演じ、この作品は2016年にカンヌ国際映画祭に招待された。2018年、ロマン・ガヴラス監督に『ワールド・イズ・ユアーズ』のプーチン役を託され、カメスはこの役で、フランスの映画界で将来有望な若手俳優たちを支援するセザール賞のRevelationsにノミネートされる。2020年、エマニュエル・クールコルの『アプローズ、アプローズ!』でアングレームフランス語圏映画祭で最優秀俳優賞を受賞。NETFLIXで配信中であるジュスト・フィリッポ監督の『群がり』にも出演し、2020年のカンヌ国際映画祭批評家週間に選ばれた。
MAËL ROUIN-BERRANDOUマエル・ルーアン=べランドゥ
クール・フローランで様々なインターンシップを経験した後、短編映画「Killing Hope」に出演。ダニエル・オートゥイユ監督の「Amoureux de ma femme」、ノエミ・サグリオ監督の「Parents d'élèves」といった2つのコメディ作品にも出演。時を同じくして、ギヨーム・ニクルー監督の「Il Etait une Seconde Fois」、エレーヌ・アンジェル監督の「La Fin de l’Eté」を含む、いくつかのテレビシリーズ、テレビ映画にも出演を果たす。
CREDIT
監督・脚本:ヨアン・マンカ
出演:マエル・ルーアン=べランドゥ、ジュディット・シュムラ、ダリ・ベンサーラ、ソフィアン・カーメ、モンセフ・ファルファー
2021年/フランス/フランス語/108分/カラー/ビスタサイズ/5.1chデジタル/ PG12
原題:La Traviata Mes frères et moi
© 2021 – Single Man Productions – Ad Vitam – JM Films
配給:ハーク 配給協力:FLIKK 字幕翻訳:手束紀子
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本